【輝く中小企業の取り組み】危機の中にあっても美味しいお米を届けるために

(株)スズヤス 取締役 岡本 光代氏(いすみ支部)

岡本 光代氏

 房総半島の南東に位置し、町の名前を聞けば誰もが真っ白な砂浜と透明度の高い海を思い浮かべる、童謡『月の沙漠』の舞台となった御宿町。この町で14代・300年もの間、米を作り続けている(株)スズヤス 取締役 岡本氏にお話を伺いました。

無農薬のコシヒカリってこんなに美味しいんだ

 岡本氏は実家が土木建設業を営んでいたこともあり、県建設技術センターに勤める団体職員でした。その時知り合いだった現在(株)スズヤス代表の鈴木氏から農業の法人化の相談を受け、それを手伝ったことがきっかけで(株)スズヤスに入社します。団体職員時代から口に入れる野菜にこだわり、ものによっては自分で栽培していた岡本氏は、鈴木氏の作る無農薬のコシヒカリを食べてそのおいしさに感動したといいます。無農薬栽培は農薬を使用する通常の栽培方法よりも収量が少なく、そのおいしさや安全性の付加価値でそれを補うのですが、職人気質であった鈴木氏は営業を一切せず、通常の栽培方法で育てられた米と同じ値段でJAに卸していることを知り、岡本氏が経理から営業・販路開拓まで経営部門を全て担うようになりました。

3.11、コロナ禍を乗り越えて

 まずはじめは農産物の直売所へ営業し、県内各所に配達をしていました。3.11の後には柏の直売所でより放射線量の検出が少ない地域の米を求めて同社の米が売れていましたが、それが地元農家の不興を買って売り場から締め出されたことも。コロナ禍では緊急事態宣言に伴う自粛で飲食店需要が減ったことから米価は大きく落ち込みましたが、卸先のラーメン屋の客足は落ちなかったことと、安心安全な無農薬栽培の米を求める保育園への供給は止まらず、大きな影響を受けずに済みました。現在は配達を効率化するためにオファーを受けた地元スーパーでの販売やEC販売の比率を高めています。

離農が離農を呼ぶ負のサイクルの中で

 全国的な課題でもある米農家の離農は御宿町でも同様で、その多くが高齢化と後継者不足で「水田を借りて欲しい・買って欲しい」という話は絶えません。次第に既存農家だけでは話を受けきれなくなり、相続放棄などもあると誰も管理しない放棄地に。そこにイノシシやキョンが住み着き、周辺の田畑を荒らすようになるのでさらに離農が加速するという負のサイクルが生まれてしまっているのが現状です。同社は3名で東京ドーム9個分の水田を管理していますが、イノシシ被害は増え続け、ひどい時は一晩で300坪の稲を荒らされてしまうことも。さらに米の新規就農は機械の設備投資額の高さから非常に少なく、農家数は減少の一途をたどっています。

 しかしブランド米需要やパックご飯需要の増加など商機はあると話す岡本氏。現在は主力の「コシヒカリ」に加えて「ミルキークイーン」や、各コンテストで優秀な成績を収めている宇都宮大学が研究した品種「ゆうだい21」の栽培にも取り組み、ラインナップの幅を広げています。

輸入頼りの食料自給率100%への警鐘

 農林水産省の発表によれば米の食料自給率はほぼ100%となっていますが、その栽培に必要な肥料や化石燃料は輸入頼りのため為替変動の影響を大きく受けていて、実質的な自給率はもっと低い数値になります。さらにパンや麺類といった主食の多様化で米の需要は減り、それが米農家の離農に拍車をかけています。この課題に対して岡本氏は「もっと日本人が日本のお米を食べて欲しい。できれば農薬使用の少ないお米のおいしさを味わってほしい」と語ります。日本食にとって欠くことのできない主役である米が直面している危機を知り、ぜひ皆様とも共有したいと思う取材となりました。

(事務局 田中)

 ♦会社概要…事業内容:お米の生産販売・キャンプ場経営 所在地:夷隅郡御宿町高山田836-1 従業員数:3名 資本金:300万円 入会年:2020年

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