【輝く中小企業の取り組み】人命は守る、事業活動も守る。チェーンストアの考え方を取り入れた建設業へ
倉沢建設(株) 代表取締役 倉沢 延寿氏(市川浦安支部)
誘われて市川浦安支部へ
今回は都心から30分で着ける小江戸の情緒残る街、川越市を拠点とし工場・店舗・オフィスの設計、施工管理を行う倉沢建設(株)を訪問しました。現在埼玉同友会の理事でもある倉沢氏が市川浦安支部に入会するきっかけになったのは2018年、一緒にやってきた所長の退職でした。その穴を埋めるように採用をするのですが、「自分のやり方は間違っていない」という誤った認識の中で呼び集めた人材で上手くいくわけがなく、現場は混乱し大口顧客にも切られてしまう状況に。そんな中、ある全国行事で広浜中同協会長にこの状況を相談すると、会長が所属する市川浦安支部に誘われて入会します。
涙を流しながら学ぶ日々
市川浦安支部では入会すると、(株)サイゼリヤ 代表取締役会長 正垣 泰彦氏が支部長だった頃に同友会の場で発信し続けてくれた学びをまとめた本(以下:緑本)がもらえます。そこに書かれている内容に触れ、何度も何度も読み返してはマーカーを引き、付箋を貼り、また読み返しては新しい気付きがあり、と自身の置かれた苦しい状況もあり総武線で涙を流しながら緑本を読む日々が続きました。
また入会間もない頃、例会の帰り際に会場を出てすぐのところで歩くことが辛そうなご年配の方を見かけ、声をかけて近くまで車で送ったことがあり、その車内で会社を経営していること、トラブル続きで困っていることを雑談として話しました。すると翌朝6時に渡した名刺から電話をかけてきてくれ、聞けば昨夜送った方は正垣会長とずっと一緒に学んできた市川浦安支部の大先輩で、これをきっかけに何度も相談に乗ってもらい、様々な学びの場に連れ出してもらいました。
悩んでいた人材の採用にあたって、責任を持って社員を育てるために市川浦安支部で学んだチェーンストア理論を取り入れます。階層・職能別に評価項目・基準を明確にした成長支援制度やこの先自社がどうなりたいのかを示した10年ビジョンを作成し、社員と共有するように。即戦力を採用するのではなく、自社の方針に合う人物像であれば未経験でも採用し、育てていくように切り替えました。
事業活動も守れる建設を
昨年竣工したばかりの新社屋には「CLT」という木材の端材を貼り合わせたパネルで高強度、かつ環境への配慮がなされた建材と、「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)」という省エネによって使うエネルギーを減らし、創エネによって使う分のエネルギーを創る事で、エネルギー消費量をゼロにするという二つの新しい手法が取り入れられています。これらを取り入れたきっかけは3.11東日本大震災にまで遡ります。
倉沢氏は震災の翌日、「建物が使える状態か見てくれ」と取引先に呼ばれ、仙台まで赴きました。大きな被害を受けていましたが、建物の構造そのものは建て替える必要はなく補修で使えそうでしたが、内装はめちゃくちゃでとても事業活動を再開できる状況にありませんでした。そのやりとりを聞いていた取引先の社員が「自分たちの仕事がこれからどうなるのか」と非常に不安そうにしていたことが印象に残りました。「現行の基準では人命は守れるが事業活動を守ることが出来ない」と思い、様々な建築技術を学び、たどり着いたものが「CLT」と「ZEB」でした。
しかしCLTは大手ゼネコンでは取り扱われるものの、そのコストの高さと高度な取り付け技術を要することから中小企業向けの建設で採用することは現実的ではありませんでした。ここで飲食チェーン店が一か所で食材を調理し、店舗では仕上げだけで済むようにしていることから学び、工場で一括大量生産することで製造単価の下げられたCLTを、現場の職人が誰であっても簡単に取り付けられるような金具を開発し、特許を取りました。またZEBにおいても、基準を満たすビルは全国で93棟、埼玉県に限ると2棟しかないのは導入コストが大きな要因で、単純に広い敷地に大きな太陽光発電を置けばZEB基準はクリアできますが、それでは中小企業に普及させることが出来ません。「価格を下げることが技術だ」と正垣会長に言われたことよく考え、生み出すエネルギーを増やせない以上、消費エネルギーを下げるしかない。そこで地中熱を利用した全館空調を導入することでZEB基準を実現することが出来ました。
市川浦安支部でのチェーンストア理論の学びを建設業で実践する倉沢建設(株)は、中小企業が安心して事業を続けられる環境にやさしい建物を作り続けます。
(事務局 田中)
♦会社概要…事業内容:工場・店舗・オフィス・企業施設の計画設計、施工管理、維持メンテナンスなど 所在地:埼玉県川越市小室566-2 資本金:2、300万円 従業員数:9名 入会年:2020年