【新型コロナ関連情報 No.10】関谷昇教授からのメッセージ
ーーーーーーーーーーーーー
千葉大学 大学院社会科学研究院
関谷昇教授からのメッセージ
ーーーーーーーーーーーーー
なかなか先の見えない状況が続きますが、植田教授に引き続き、
同友会でも多数ご講演いただいている千葉大学の関谷昇教授より、
「長期化する戦いに向けて」と題して会員の皆さまへメッセージを
いただきました。
以下全文
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
千葉同友会会員の皆さまへ
「長期化する戦いに向けて」
■長期化する戦い
新型コロナウイルスの感染拡大は日を追うごとに深刻さを増している。その影響はわれわれの身近なところでも実感されるようになってきており、懸念は拡がるばかりである。その根底には、専門家ですら解明できていない未知のウイルスの恐怖、海外と比較して顕著な政府対応の遅れと混乱、休業要請による経済活動への打撃、学校休校・学童閉所による弊害、外出自粛に伴う生活の閉塞感、医療崩壊への不安など、どこにもぶつけようのない怒りと相互不信が堆積している。
いずれにしても、この戦いは長期化するとの見方が強く、その意味では「いまをどう乗りきるか」という短期的な対応に加えて、「今後どう生き抜いていくべきか」という長期的な戦いを強いられていく状況に差し掛かっていることは自覚されてしかるべきである。
■雇用維持と生活保障に対する迅速支援
こうした状況において、どん底に追い込まれている経営者は少なくない。移動の制限は地域経済を萎縮させていく以上、いまもっとも力を入れるべきは、雇用の維持であり生活の保障である。確かに国や自治体による個人や中小企業への支援は少しずつ始まってはいるものの、さらに思い切った給付支援を図り、個人や経営者たちが少しでも前進できる体制を整えていくべきである。財政バランスなどと言っていられる場合ではなく、国民が生きるために必要な支援を迅速に行っていくことが、国や自治体に問われている責任である。
一方の経営者も、必要に応じて相談を重ね、得られる支援をかき集め、できる限りの経営維持を図ることが急務である。そのためには、氾濫する情報に左右されることなく、いま自分たちが置かれている現状をしっかりととらえることが肝要である。その上で、減収に伴う経営の現実を直視し、社員とともに苦境に耐える話し合いを重ねていくことで、早期に経営の修正や改善の方針を固めていくことである。無論、それは一朝一夕にできることではないが、自分たちにできるスタイルを少しずつつくり出していくことが、企業の一体感をつくり出していくことにつながる。社員とともに生活の苦しさを共有していくところに育まれる信頼関係、それこそが経営を支える駆動力になるということを改めて大事にしたいところである。
■自社の事業価値の再自覚
いま厳しい状況に置かれているからといって、それは各々の企業の事業価値自体が否定されているわけでは決してない。変化しているのは未知のウイルスに侵されている社会環境の方であり、事業展開の方法がこれまでどおりでは困難になっているのである。
さらに問題を難しくさせているのは、商品・サービスを提供する企業と購買する顧客・消費者との関係が、このウイルス感染拡大によって分断されつつあるということである。だからこそ、自分たちが培ってきた顧客・消費者との関係を改めて見つめ直し、状況に見合った新たな関係を見出していくことが大切なのである。
長期化する戦いに備えていくためには、原点に立ち返り、いついかなるところで、何がどのような方法で求められているのかを確かめることが前提となる。その上で、自社の事業価値あるいは商品・サービスの提供方法をとらえ直し、自分たちにできることを工夫していくことが再建の鍵となる。そこから新たに培われる信頼関係こそ、今後の経営を支える駆動力になっていくのである。
■地域における課題共有と協力関係の構築
もっとも、こうした課題は身近な仲間から地域へと共有されていくべきことであって、決して自社のみで抱え込むべきことではない。長期化する戦いは、個別の支援や対応だけでは乗り切っていくことが難しい。いずれ国や自治体がなしうる支援にも限界が出てくるだろう。それゆえ求められるのが、地域コミュニティにおけるつながりである。
様々なものがつながることによって生み出される力は計り知れない。地域コミュニティとは、生きる場であり、働く場である。いまでこそ専門分化した社会となってしまっているが、元々は団体・事業・分野・世代が横断的につながりを持っていた場所であり、そこで様々な支え合いがつくり出されていた。この横断的な力こそが、子どもを、働く者を、高齢者を支えるのであり、いま私たちが取り戻すべきものなのである。直接に相対峙しなくても、われわれがつながることができる手法はたくさん存在しているからこそ、そのリアリティは高いのではないか。
いま同友会として取り組むべきは、各企業と行政とのあいだ、企業と企業のあいだ、企業と顧客・消費者とのあいだを徹底的につなぐことである。それぞれが自分たちの置かれた状況を伝え、共有し、知恵を出し合う。この協働の力こそが、この難局を乗り越え、自社を生かしていくことになるのではないか。いまだからこそ、つながりが生み出す力を信じて。
2020年4月20日
千葉大学大学院社会科学研究院教授 関谷 昇
◆関谷昇氏プロフィール
千葉大学法政経学部教授。専門は政治思想史・政治学。近代社会契約説、自治の思想、補完性原理、コミュニティ論を研究テーマとするほか、市民自治、市民参加・協働のまちづくりなどの社会的実践にも取り組んでいる。千葉市、松戸市、香取市、富里市など多数の市町村のまちづくり協議会や条例策定委員会にアドバイザーとして関わっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー