【会員企業の取り組み事例withコロナ】 「美味しい」と「楽しい」をみんなが共有できるお店 ~困難な時代を乗り切る、「人貧乏」しない経営~

(有)ベル 若鈴 代表取締役 佐野 慎一氏(安房支部)

佐野 慎一氏

地魚への強いこだわり

 一年を通して豊富な魚介類が水揚げされる「水産のまち」千葉県館山市に、新鮮な地魚料理を看板にする「美味い家 若鈴」があります。「地魚喰いたきゃうちに来な!!」というキャッチコピーを掲げていますが、実際「外からのお客さんを連れていくなら、若鈴」と地元館山の人が信頼を寄せるお店であり、安房支部でも設立以来、例会でお招きした他支部の報告者をこのお店でもてなすのが恒例になっています。

 お店で提供される料理は、もちろん魚が一番のウリです。16歳の頃に板前見習いになってからずっとその世界に身を投じている佐野氏が、厳しく目利きをして仕入れています。仕入先の一つには安房支部の(株)まるい(鈴木大輔社長)もあり、店頭で佐野氏が魚をずらりと並べて長いこと吟味している姿もおなじみだそうです。

新鮮な地魚が魅力

変わる事業展開と、変わらない人のあたたかさ

 同社の前身は、佐野氏のお父様が創業したクラブとスナックです。ピーク時には3店舗で50名程が働く活況ぶりでしたが、バブルの崩壊と共に業態に陰りが出て、和食料理店に転換。佐野氏が引き継ぐこととなりました。

 40歳になるまでは現場と経営の両輪で、夜もなかなか店を空けられなかったという佐野氏。業態を転換してからもしばらくは3店舗で営業をしていましたが、資源や力が分散してしまい費用対効果が出ず、思い切って本店に資源を集中させました。現在本店は改装したこともあり全部で120席、接待向きの個室から団体向けの大部屋まで、幅広いニーズに応えられることも強みの一つになっています。

 時代に合わせて選択と集中をはかり、必要に応じて転換を行ってきた同社ですが、当然のことながら投資による借入もあり、これまで決して楽な道ばかりではなかったといいます。東日本大震災の際は特に、売り上げが落ち込み大変な苦労をしたそうです。

 しかし「お金で貧乏をしたことは数えきれないほどあるが、不思議と『人貧乏』は一度もない」と語る佐野氏。困った時に手を差し伸べてくれる経営者仲間や、来てくれる常連客、そしてスタッフに助けられてきたのだと言います。

コロナ禍でもスタッフとお客様の存在で前を向く

 そんな教訓からか、同社の経営は自然と「人を大切にする」ことが主軸に置かれているようです。スタッフは若鈴で長く働いている人が多く、中には10年、20年選手もいます。毎年社員旅行(コロナ禍では中止)に行くのが楽しみとなっていますが、そのために大型バスをチャーターし、社員だけでなくその家族や、お客さんまでも自腹を払って参加するというので驚きです。お客さんと社員がいわば「若鈴ファミリー」として、普段から自然と一体となり、楽しい時間を共有している様子がうかがえます。

 人を大切にする姿勢は今回のコロナ禍でもうかがえます。佐野氏は2020年の1月、日本での感染が確認された頃に、真っ先に銀行に電話しました。目的は、お店を休業して収入がゼロでもスタッフの生活を保証できる資金を確保すること。その後、最初の緊急事態宣言(2020年4月)から数えて計3回、休業期間をとることとなり、年間売上は以前の50%の水準まで落ち込みました。しかし日頃の金融機関との関係を生かせたことと、雇用調整金なども活用できたことで社員の生活を守ってきました。苦しい状況が続いていますが、昨年の11月は一時的な感染の落ち着きと忘年会シーズンが重なり、過去最高売上を記録するという嬉しいニュースもあったそうです。今また感染が広がっていますが、「スタッフに『昨年末忙しかった分、みんな少し休もうね』と明るく声をかけています」と前向きです。

 もともとお酒を飲むのが好きで、自分自身が若鈴で働きながらも時にお客様とお酒を飲み、つながりをつくってきたという佐野氏。それゆえ、経営者は孤独と言うけれど孤独を感じたことはあまりないと話します。人の笑顔と、美味しい料理と、楽しい時間がひとつに集まる場所。まさに社長自身が若鈴の魅力を体現しているのだと感じました。

(事務局 菊池)

明るい店内

会社概要…事業内容:飲食業(「美味い家 若鈴」の経営) 所在地:館山市上野原91-4 従業員数:8名

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