【会員企業の取り組み事例withコロナ】人と人を結び、想いを結ぶネクタイづくり~世界に羽ばたく工房をめざして~

(株)ツバメ日吉 常務取締役 渡邉 孝太郎氏(佐倉支部)

渡邉 孝太郎氏

手仕事の良さが今も残るネクタイづくり

60周年を迎える工房

 検見川神社にほど近い静かな住宅街の中に、日本では珍しいネクタイ・リボンの縫製工場があります。日産1500本という生産能力を持ち、大型受注からオーダーメイドまでこなす(株)ツバメ日吉の工房です。創業60周年を迎える工房には、使い込まれた道具と様々な生地や型紙が並び、歴史と伝統が息づいていることを感じさせます。

 同社は渡邉氏の祖父が設立。バブル期には大量生産型工場として成長期の需要に応えましたが、バブル崩壊後は受注減で規模を縮小。リボンや特殊タイの製造にも幅を広げ、同時にパターン(型紙)の作成も行うなど「メーカー」としてのノウハウも蓄積してきました。 

 時代に合わせて形を変えてきた同社ですが、根底にあるのは変わらない堅実なものづくりです。今でも工程の多くが手作業であるネクタイづくりは、主婦の方をはじめとするベテラン職人の技術に支えられ、細やかな気遣いと温かみに満ちた手仕事の良さが感じられます。

現在でも手仕事が光るネクタイづくり

捨てられるようなものは作りたくないという想い

 渡邉氏は2008年に実家である同社に入社。ネクタイの生産管理を任されたことで、売上は順調に伸び、社内に安泰なムードが漂っていましたが、受注価格の安さに危機感を抱いていました。東日本大震災の影響で危機感は現実のものとなります。管理会計を導入してみると、利益がほとんど確保できていない製品があることもわかり、価格の見直しや固定費の削減、作業工程のフラット化などに着手。それまで築いてきた「ものづくりが好きな集団」の良さをそのままに、付加価値の高い商品で利益を確保し、工房の価値そのものも上げていきたいという想いを強めてきました。

オーダーネクタイの魅力を広めたい

最高峰のネクタイ『ディエチピエゲ』

 そんな中で始めたのがオーダーネクタイ事業です。本来、結んだ時に一番きれいな形・バランスをつくるネクタイは、一人ひとりの身長や体格によって違い、欧米ではネクタイをオーダーするという文化は当然のものとして根付いています。渡邉氏は魅力を広めるために少しずつ受注を増やしてきました。オーダーネクタイは、形・素材・加工、全てにおいて既製品とは異なり、美しさと結びやすさが加わります。特に最高峰の「ディエチピエゲ」と呼ばれるネクタイは、芯材を使わずに何重にも生地を織り込んでつくる、高い技術を必要とするものです。同社はディエチピエゲをオーダーで製造できる日本で唯一の工房です。

唯一無二のネクタイづくりは、国境を超える

 渡邉氏は2022年千葉同友会の経営指針成文化セミナーに参加し、経営指針を作成しました。同社の理念の中には「結ぶ」「国際交流」といったキーワードが出てきます。それはツバメ日吉の作るネクタイが、欧米由来のネクタイという文化を取り入れ、咀嚼し、日本らしい形に仕立てた唯一無二の商品であることを指しています。

 欧米ではファッションを通して「自分が何者であるか」を示す傾向が強いのに対して、日本には「相手のものをとりこむ」傾向があります。日本人がしばしば、相手のカラーやモチーフをファッションにとり入れることで、親愛や敬意を示すのもその一例です。

 ネクタイも様々な場面で、「相手への想いをこめたもの」として使われると渡邉氏は考えます。そのためツバメ日吉のネクタイづくりは、人の想いや縁を「結ぶ」仕事であり、それを海外へ広めて国際交流の架け橋としたいという夢が理念に含まれているのです。

 取材を通して、ネクタイが生み出す幾重ものストーリーと可能性に想いを馳せました。日本が誇れる手仕事が、世界のブランドとなる日を楽しみにせずにはいられません。

(事務局 菊池)

会社概要…事業内容:ネックウェアの縫製・企画。オーダーメイドネクタイの製作 所在地:千葉市花見川区浪花町4 資本金:1,000万円 従業員数:40名(パート・アルバイト34名) 入会年:2020年

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