【新型コロナ関連情報 No.17】拓殖大学政経学部 山本尚史教授からのメッセージ

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拓殖大学政経学部
山本尚史教授からのメッセージ
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エコノミックガーデニングの推進者で、日頃、同友会大学をはじめ各種講演会等でお世話になっている拓殖大学の山本尚史教授より、「スマートニッチ企業へ」と題したメッセージを寄せていただきましたので掲載させていただきます。
いずれ来るコロナ危機後、私たち中小企業はどのような企業をめざすのか、示唆に富んだお話しです。ぜひご一読ください。

◆山本尚史氏プロフィール
経済学博士(ハワイ大学)、公共政策学修士(プリンストン大学)、筑波大学卒業。地域経済活性化政策を研究。『地方経済を救うエコノミックガーデニング』を出版。大学での担当科目は、日本経済論(学部、大学院)、開発経済学(学部)など。

以下全文

『スマートニッチ企業』へ

 新型コロナウィルスの蔓延により中小企業は大きな影響を受けている。例えば、緊急事態宣言の発令によって、外出の自粛や密集・近接・閉鎖空間からの回避が求められたために、いわゆる「三密」になりやすい飲食などのサービス産業には早くからその影響が出た。さらに、国内だけでなくインバウンドの観光客がいなくなったために、観光業に関連する企業にも大きな打撃となった。また、製造業においても、流通の停止や貿易取引の禁止・規制により、必要な部品が手に入らなくなるなど、サプライチェーンの寸断も見られているほか、需要の減少を見越した受注の減少も幅広く見られている。

 まずは、政府などから提供されている緊急支援を活用して現在の困難な状況を乗り越えてほしい。そして、コロナ危機後には、同友会の会員企業には「スマートニッチ」として活躍してほしい。

 「スマートニッチ」とは、簡潔に言えば、「地域経済にあって、規模は小さくとも独自の技術やノウハウを有し、優れた経営を行っている中小企業」(財務省地方課『地域の課題と財務局の役割』より)を意味する。スマートニッチは、自然生態系でいう「中枢種」と同様に、地域経済という生態系において、比較的少数でありながらも全体に大きな影響を与える存在である。

 例えば、小さな町に地元のクリーニング店があり、その町にあるいくつもの旅館のリネンを洗濯する仕事を一手に引き受けているとしよう。もし、そのクリーニング店が操業を止めてしまったら、その町の旅館業だけでなく観光業全体に影響することになるだろう。そのクリーニング店の技術は、今は平凡かもしれないが、少なくとも、その会社がなくなれば、地域経済にとって困ることになる。すなわち、1つの企業が減少するにより、その地域における経済価値の損失は大きなものになる、といえるのである。

 さらに、その地域において産業が変化してゆくにつれて、リネン業に対しても高度な付加価値が求められてくるとしよう。その際に、生産性は低くとも、細々とでもいいからリネン業が存在することにより、新型機械の導入によりその技術を高めたり、他業種と連携して新たなサービスを提供したりする素地にもなろう。この場合、そのクリーニング店はスマートニッチに該当する。実際に、南九州のある小さな町の精肉店では、バーベキューの出張サービスを行って、精肉店の店頭のみならず、河川敷にバーベキューセットと人数分の肉や野菜をデリバリーして提供するという高付加価値化で生き残っている例があった。

 スマートニッチには、どの企業であってもなれる。スマートニッチは企業の事業規模や業種には依存しない。個人事業、非営利団体、公的機関であっても、スマートニッチとなることができる。たとえ、現在は生産性が低いとしても、「スマートニッチたらんとする意志」があれば、他のスマートニッチとの新結合が可能となる。

 スマートニッチになるための客観的な基準や規定はないから、スマートニッチへの近道というのもない。ただし、現実的には、『企業変革支援プログラム』を活用して経営をよりよいものとする取り組みは、とても効果的であろう。また、社会や行政との連携を深めるために、「地域経済ビジョン」を策定したり、「中小企業振興基本条例」を制定したりすることも、お勧めしたい。

 スマートニッチが活躍する社会においては、それぞれの主体が、個性を思う存分伸ばしつつ、相互に補完的な関係を構築することにより、社会全体として時代の波に流されない価値を提供することが重要である。この社会においては、「競争の中での協力」が自然に発生する。そして、社会を構成する人々が互いに高め合いつつ助け合う温かい社会が持続する。

 コロナ危機に対応するためには、悲観的にならず、今ある技術や伝統、社会的な関係性といったものを丁寧に紡いでいくことが大事である。まずは、コロナ危機の、「危」(危険)だけでなく「機」(チャンス)の側面をしっかりと直視しよう。そして、確実に正解であるという自信がなかったとしても、一歩を踏み出すことから始めよう。

2020年5月19日
拓殖大学政経学部教授 山本尚史